「春キャベツ」薬剤師:白井文隆コラム3
5月に入り、日差しがやさしく温かさを運んでくれる季節となりました。 衣替えのタイミングに迷いつつも、街では早くも半袖姿の人をちらほら見かけるようになりました。 そんな心地よい季節の旬の食材が「春キャベツ」です。
春キャベツの特徴は、葉がふんわりとやわらかく、ほんのりとした甘みを感じられることです。 その柔らかさゆえ、生食はもちろん、さっと火を通すだけでも甘みが一段と引き立ちます。 また栄養も豊富で、中でも特にビタミンCとビタミンU(キャベジン)が注目されています。 今回は、この2つの栄養素について詳しく掘り下げていきましょう。
【ビタミンC】
ビタミンCは水溶性ビタミンの一種で、体内で合成できないため、食事から摂取する必要があります。 皮膚や骨、血管などの構造を支えるコラーゲンの合成には、ビタミンCが不可欠です。 具体的には、コラーゲンの主要成分であるアミノ酸・ヒドロキシプロリンが生成される際、プロリンというアミノ酸を水酸化する酵素の補酵素として働きます。
またビタミンCには、抗酸化作用という重要な働きもあります。 私たちの体内では日々「フリーラジカル」と呼ばれる活性の高い分子が生成され、細胞のダメージや老化、生活習慣病を引き起こす原因となります。 ビタミンCはその還元力によってフリーラジカルを除去し、体を守ります。 さらに、鉄分の吸収もサポートします。 食品中の鉄には吸収しやすいヘム鉄(肉・魚など)と吸収が難しい非ヘム鉄(野菜・穀物など)があり、特に非ヘム鉄は吸収率が低いのですが、ビタミンCはこれを吸収されやすい2価の鉄(Fe²⁺)へと還元し、小腸での鉄分吸収を助ける働きをしています。
【ビタミンU(キャベジン)】
ビタミンUは正式にはビタミンではなく「ビタミン様物質」と呼ばれ、その主成分はメチルメチオニンスルホニウムクロリドという化合物です。 これは医薬品にも使用されている成分で、胃粘膜の保護や修復促進に効果があります。 具体的な生理作用については未解明な部分もありますが、胃の粘液(ムチン)の分泌を促進し、胃酸や消化酵素から胃の粘膜を守る働きが知られています。 さらに胃の血流を促進し、修復に必要な栄養素を胃粘膜へ届けることで、胃の健康維持に貢献しています。
春の陽気と共に育まれた春キャベツには、この季節ならではの自然の恵みが詰まっています。 やわらかな葉が届ける甘みや、胃腸をいたわるビタミンU、体の代謝を助けるビタミンCなど、体に嬉しい栄養が豊富です。 ぜひ旬の味覚を楽しみながら、健康的な毎日を過ごしてみてはいかがでしょうか。