「さくらんぼ」薬剤師:白井文隆コラム5
6月に入り、梅雨の季節がやってきました。
空気はじめじめと湿り気を帯び、徐々に初夏の訪れを感じさせます。
そんな6月に旬を迎える食材が「さくらんぼ」です。
さくらんぼには健康に寄与する栄養素と美容に寄与する栄養素がバランスよく含まれています。
今回は、栄養素でも特に注目されるビタミンC、アントシアニン、食物繊維、メラトニンについて詳しく見ていきましょう。
【ビタミンC】
ビタミンCは水溶性ビタミンの一種で、体内で合成できないため、食事から摂取する必要があります。 皮膚や骨、血管などの構造を支えるコラーゲンの合成には、ビタミンCが不可欠です。 具体的には、コラーゲンの主要成分であるアミノ酸・ヒドロキシプロリンが生成される際、プロリンというアミノ酸を水酸化する酵素の補酵素として働きます。
またビタミンCには、抗酸化作用という重要な働きもあります。 私たちの体内では日々「フリーラジカル」と呼ばれる活性の高い分子が生成され、細胞のダメージや老化、生活習慣病を引き起こす原因となります。 ビタミンCはその還元力によってフリーラジカルを除去し、体を守ります。 さらに、鉄分の吸収もサポートします。 食品中の鉄には吸収しやすいヘム鉄(肉・魚など)と吸収が難しい非ヘム鉄(野菜・穀物など)があり、特に非ヘム鉄は吸収率が低いのですが、ビタミンCはこれを吸収されやすい2価の鉄(Fe²⁺)へと還元し、小腸での鉄分吸収を助ける働きをしています。
【アントシアニン】
アントシアニンはポリフェノール系の天然水溶性色素で、ビタミン Cと同じく高い抗酸化力をもち、フリーラジカルや活性酸素による酸化ストレスから体を守ってくれます。
さらに、アントシアニンは目の健康を支える働きでも知られています。
網膜の桿体細胞にある視覚タンパク質ロドプシンは、光を受けるたびに分解と再合成を繰り返して視覚情報を脳へ送りますが、長時間の酷使でこの再合成サイクルが遅れがちになることがあります。
アントシアニンはロドプシンの再合成を助けることで、目の疲労を和らげたり、暗所での視認性を高めたりと、視機能の維持・向上に寄与します。
【食物繊維】
さくらんぼにはペクチンという水溶性食物繊維が含まれています。ペクチンは主に2つの役割を持っています。ひとつはゲル化作用、もうひとつは腸内環境の改善です。
ペクチンは胃や腸内で水分を吸収し、粘性の高いゲル状の物質に変わります。このゲル化によって腸内の内容物の移動がゆっくりとなり、栄養素の吸収を助ける効果があります。
また、便の「かさ」を増やして便通を改善する働きもあります。
さらに、ペクチンは発酵性食物繊維として腸内細菌によって発酵され、短鎖脂肪酸という善玉菌の栄養源を生み出します。これにより善玉菌の増殖が促進され、腸内環境の改善に役立ちます。
【メラトニン】
メラトニンは脳の松果体で産生・分泌されるホルモンで、約24時間周期で動く「概日リズム」いわゆる体内時計を整えるために必要となります。
夜になると分泌量が高まり、全身に「今は夜だ」というサインを送り、自然な眠気を促して睡眠‐覚醒リズムを調節します。
これからの季節、疲れやすさや睡眠の乱れ、肌のトラブルが気になりやすい時期でもあります。
そんなときこそ、旬のさくらんぼを取り入れて、体の内側から整えてみるのはいかがでしょうか。
甘酸っぱくみずみずしいさくらんぼは、季節の変わり目を健やかに過ごすためにもってこいです。