「とうもろこし」:薬剤師 白井文隆コラム7
8月となり、本格的な暑さが続いています。
もはや「暑い」というよりも、肌を刺すような日差しが照りつけ、毎日を過ごすのもひと苦労です。
そんな猛暑の季節にぴったりの夏野菜といえば、やはり「とうもろこし」。
まさに夏を代表する食材と言っても過言ではありません。
とうもろこしは、そのまま茹でても、焼いても、揚げてもおいしくいただける万能な食材です。しかも、おいしいだけでなく、栄養価にも優れていることをご存じでしょうか?
今回は、とうもろこしに含まれる栄養素の中でも、特に注目されているビタミンB₁、ビタミンB₆、ナイアシン、ゼアキサンチン にスポットを当てて、その働きや健康への効果について詳しく見ていきましょう。
【ビタミンB1】
ビタミンB1は水溶性ビタミンに分類される栄養素です。
体内ではチアミンピロリン酸(TPP)という活性型へと変換され、主に糖質代謝、神経機能の維持に関与しています。
糖質代謝に関して、体内ではATPと呼ばれる生命活動に必要なエネルギー分子が作られています。
そのATPを産生させるには解糖系、クエン酸回路という代謝経路が重要となります。
食事から摂取した炭水化物は体内で分解され、まずブドウ糖となり、解糖系で代謝されてピルビン酸という中間産物が作られます。
このピルビン酸はさらに代謝されてアセチルCoAとなり、クエン酸回路に取り込まれた後、ATPの産生につながります。
ビタミンB1はこの一連の流れの中でも、ピルビン酸からアセチルCOAに代謝する反応において、補酵素として機能します。
そのため、ビタミンB₁はATP産生を助け、疲労回復やエネルギー代謝のサポートに重要な役割を果たしています。
【ビタミンB6】
ビタミンB6は水溶性ビタミンに分類される栄養素です。
体内ではピリドキサールリン酸(PLP)へと変換され、主にたんぱく質代謝や神経伝達物質の合成に関与します。
たんぱく質代謝に関して、食事などから摂取したたんぱく質は、いったんアミノ酸へと分解されたのち、体内で必要なたんぱく質へと再合成されます。
再合成されたたんぱく質は、皮膚や粘膜、髪、歯、爪などの組織を構成する材料となります。
ビタミンB₆は、このアミノ酸の分解や再合成を行うさまざまな酵素(AST、ALTなど)の補酵素として作用し、たんぱく質代謝を円滑に進めるサポートをしています。
また、ビタミンB₆は神経系にも重要な役割を果たしており、GABA、セロトニン、ドーパミンといった感情や睡眠、集中力に関係する神経伝達物質の合成にも関与しています。
そのため、ビタミンB₆は心の安定やストレス緩和にも関わる栄養素となっています。
【ナイアシン】
ナイアシンは水溶性ビタミンに分類される栄養素です。
体内ではNAD⁺ / NADP⁺といった活性型へと変換され、主にエネルギー産生に関与しています。
私たちの体がATPを産生するには、糖質、脂質、たんぱく質から電子を受け取り、解糖系→クエン酸回路→電子伝達系という一連の代謝経路に受け渡す必要があります。
ナイアシンは電子の運び屋(補酵素)として働き、糖質・脂質・たんぱく質から取り出した電子を受け取り、それをエネルギー産生の回路に橋渡しする役割を担っています。
これにより、ATP産生を助け、疲労回復やエネルギー代謝のサポートに重要な役割を果たしています。
【ゼアキサンチン】
ゼアキサンチンは黄色の色素であるカロテノイド1種です。
主に視覚機能の調整や保護に関与しています。
体内では特に目の網膜の中心になる黄斑部に存在しています。
網膜はカメラのフィルムの様な部分で光の情報をとらえて脳に映像として伝える重要な場所です。
その中でも黄斑部は、色や形、細かいものを識別する機能を持ち、私たちが「見たいものをはっきり見る」ために欠かせない部分です。
また、黄斑部は光を集中的に受けるため、紫外線やブルーライトを受けやすく、それに伴い活性酸素(フリーラジカル)が発生しやすくなっています。
この活性酸素が蓄積すると、網膜の細胞がダメージを受け、視機能の低下につながる可能性があります。
ゼアキサンチンはそうした活性酸素を除去する抗酸化作用を持ち、紫外線やブルーライト、代謝活動で生じた一重項酸素や過酸化ラジカル等の活性酸素を中和する効果を持っています。
そのため、酸化ストレスから目を守り、視覚機能を維持・保護する役割を担っています。
いかがでしたでしょうか。
とうもろこしは、甘くておいしいだけでなく、疲労回復に役立つ栄養素や、体づくりに欠かせないたんぱく質の構成要素、さらに視覚機能を守る成分など、さまざまな健康効果をもつ食材です。
日差しの強い日が続きますが、旬のおいしさを楽しみながら、夏の健康維持にもぜひ役立ててみてください。